2002.02.21 「大観音」のコメントページを追加しました |
「大観音」という言葉を使うのが適当かどうか わからないが, 日本全国 あちこちに 大きな観音像が建っている。 高さが数十メートルもあるものや, 最も背の高いのは 100メートルにも達する ものがある。もちろん これだけ大きくなると 屋根の下に暮らすわけにはいかないから 雨風にさらされながら じっと立っている。
一体 あの観音さんたちは, 誰が どういう目的で建てたのだろう。
比較的小型のものは 寺が純粋に宗教的なシンボルとして造ったものもあるが,
超大型なものは 灯台のようなランドマークになっていて,
観光目的で造られたのだろうと想像される。多くは
内部が空洞になっていて 上まで登っていける構造になっており
展望台としての役割も果たしている。
しかし あれだけ大きいと 維持費だってバカにならないだろう。
どれほどの観光客・参拝客を集めているのか, 他人ごとながら いささか心配になってくる。
いくつかの大観音について 設立の由来を調べてみたが,
個人が私財を投じて建てたものもあるようで 大変興味深い。
企業が レジャーランド のような施設を造り, その客寄せとして建てられた
観音像もある。
寺の施設になっているものであっても, まずお寺があって そこに観音像を建てたケースと,
先に観音像が造られて あとから管理(?)のために お寺が建てられたという
ケースの両方がある。
いくつかの大観音を訪ねてみた。1年〜2年ぐらい前に行ったところなので, 場合によっては 現状と多少変わっている所もあるかもしれない。
高崎・白衣観音 |
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大観音といえば 高崎の 白衣(びゃくえ)観音。 おそらく全国的に一番名の知れた 観音さんだろう。
高崎駅から 西へ約3km。観音山丘陵の上に, 真っ白で優雅な姿を見せている。 横から見ると かなり反り身である。 高さ 41.8m あるそうで 真下に立つと 非常に大きく感じる。
“白衣観音”という呼び名は, 単に 白い衣を身につけているからだと思ったら,
法華経に "三十三観音"というのがあって, 瑠璃観音・魚籃観音・・・
など 33の異形の一つに "白衣観音" があるのだとか。
穏やかな 優しい表情である。
観音像に人気があるのは この優しい雰囲気にあるのだろう。
像の内部(胎内)は 意外に広い空間があって, 階段で 9階(肩のあたり)まで
人が登れる構造になっている。
ところどころに 小さな窓があって, 外の景色を見ることができる。
上に登るにつれて 視界が広がっていくのが面白い。
観音像を背後から見ると, 右上の写真のように 点々とホクロのように
穴が開いているが, これが 小窓である。
途中には 普賢菩薩・文殊菩薩・閻魔大王・地蔵菩薩・釈迦如来・・・ など 多くの仏像が安置されているが, "ありがたそうなものは 何でも陳列してある" という印象で 思わず苦笑してしまう。 弘法大師や 聖徳太子までが並んでいる。
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構造物として見ると, 9階建ての ビルに相当するものであり,
あの複雑な曲線を 鉄筋コンクリートで表現するのは, 当時の建築技術としては
大変な工事だっただろうと想像できる。
骨組みの上に 竹で編んだカゴ状のものをかぶせ, その上からコンクリートをのせる
という方法で曲線を出したと言われる。
この構造で 60年間 風雪に耐えてきたが, 1995年に コンクリートの一部が剥落する
事故があったため, 大修理が行われ 現在の美しい姿になった。
東京湾観音 |
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ここは 千葉県・房総半島の 富津岬の近く。JR房総線の 佐貫町駅から
直線距離で 2km ほど。
東京湾に面する 大坪山という 高さ120mの丘の上に立つ。
観音像の高さは 56m なので, 海面からの高さは 180mに近く,
文字通りの“大観音”である。東京湾はもちろん, およそ10km先の対岸,
三浦半島(観音崎)もよく見える。
地元出身の 宇佐美政衛氏が 戦没者の供養と世界平和を願って,
私財を投じて 1964(昭和39)年に建設した。
現在は "宇佐美造林" という企業が管理しているということで,
周囲には 観音会館という みやげ物店のビルがあるだけで お寺や神社はなく,
宗教色はほとんど感じられない。
像の内部は やはり人が上れる空間があって, 20階まで登ることができる。10階で
腰のあたり, 20階が 頭(冠の部分)になる。肩と冠の部分の2か所に
展望台が設けられている。
ここも 高崎の観音と同様, 階段の両脇に 七福神や 十三仏 などが安置されているが,
創設者の 宇佐美氏の像 までもが 並べられているのは 興醒めする。
観音像の背面には やはり小窓があって 外を覗き見ることができるが, 窓は 吹き抜け (高崎では 窓にガラスがはまっていた) 。 したがって 台風の際には 風雨が吹き抜けていく構造になっている。
船窓のような小窓の中に 奥深い空洞 |
吹抜けの小窓。幅20cmほど |
こんなに狭い |
ちなみに, 像内は 螺旋階段になっていて, 昇り降りする人が ゆっくりと すれ違う幅があるのだが, 上層に行くにつれて だんだん狭くなる。 最上階に近くなると 階段は一方通行となり, 最後は 上左の写真のように 梯子段をようやく登ることになる。これも結構スリルがある。
大船観音 |
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(大船駅から見る) |
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(接近して真横から見る) |
東海道線で東京に向かう時, 大船駅に近づくと 左側の山の上に 大きな観音像が見える。 電車の中からは ほんの一瞬 チラッと見えるだけだが, 大船駅で降りて 駅舎2階のモノレール駅の脇に出ると, 目の前の山の上に 大きく広がってくる(写真 左)。 なにしろ この観音さんは 駅からわずか200mの 山の上に建っているのだ。
しかし 近い位置から見ると 何かおかしく感じる。
山の高さに比べて 観音像の頭の高さが異様に低い。
あの高さから推測すると 足はちょうど山のふもとの高さになるような感じだ。
そうか, 観音像は あの山の向う側に立っているのか。
そう 早合点して 山の裏側に行こうとしたが, どうやってもたどりつけない。
もう一度 駅まで戻って, 正面から近づいて行ったら,
山に登る小道があって「大船観音」の看板が出ていた。
これを上っていくと 山上に“観音寺”の山門があり,
ここから更に石段を登ると, 正面に 観音像の巨大な顔が現れる。
これは 大変劇的な印象 である。
像の真下まで行ってみると, 地面に接する部分が 写真(中) のようになっているのが見えた。
これでようやく, この観音さんは 立像ではなく, 胸から上だけの 胸像である
ことが理解できた。山を登りながら, もしかしたら 地中に下半身が埋まっている
のではないかと思っていた自分に 思わず笑ってしまう。
胸像の観音さんというのは とても珍しいのではないだろうか。
大船観音は, 観音思想を普及させ 世相を浄化しようという意図で, 清浦奎吾氏(大正13年に総理大臣) や 金子堅太郎氏(初代日本大学校長, 後に司法大臣) らによって「護国観音」の建立が計画された。 この時点では 普通に立った姿が予定されていたようだが, 現地の地質が弱いため 坐像に変更され, 更に 胸像へと 計画が変わって行った。
1929(昭和4)年に着工されたが やがて資金難におちいり,
像の原形ができたところで 工事は中断されてしまった。
さらに戦争が勃発したため そのままの姿で長い間放置されてきた。
戦後 安藤正純氏(吉田内閣で国務大臣)や 五島慶太氏(東急グループの創設者) らの
協力のもとに 工事が再開され, およそ 20年間 放置されていた原形を生かして
肉付けする形で, 1960年(昭和35年)に完成した。
像の高さは 25m というから, もしこのまま立像にしたら
40〜50m の高さにはなったのではないだろうか。
ここもやはり 胎内に人が入れる空間があるが, 規模が小さいため 上に登る構造には
なっておらず, 入った場所に仏壇があり 仏像が安置されているのみである。
以上 首都圏にある3つの大観音, 高崎観音・東京湾観音・大船観音 の
写真をご覧いただいたが, ここで それぞれのクローズアップを並べてみよう。
“どれが一番美しいか” などと言うのは ヤボというものだが,
やはり観音像は 顔と姿の美しさが命だろう。
それぞれ 著名な彫刻家が 小型の原形を作り, それを忠実に拡大して コンクリートで
造り上げていったものだろうが, こんな巨大な彫像を作る作業は,
私のような素人には 想像を絶する。
全国に "大観音"と呼べるものがどれだけあるか 調べ始めたが,
正確にはよくわからない。これまでに把握できたものを 下に列記しておくが,
全てのデータを集めたわけではないし, また どこまで正確なデータなのか 自信はない。
(間違いなどがあったら ご指摘ください。)
名称(所在地) [★=上で紹介したもの] | 高さ | 建設時期 他 |
---|---|---|
仙台大観音(仙台市) | 100m | 市制100周年を記念して高さ100mに |
世界平和大観音(兵庫県淡路島) | (100m) | 台座含めて100m |
北海道大観音(北海道芦別市) | 88m | 1989 芦別レジャーランド |
加賀大観音(石川県加賀市) | 73m | 1987 金色大観音。加賀寺 |
久留米大観音(福岡県久留米市) | 62m | 久留米成田山 |
会津慈母大観音(福島県会津若松市) | 57m | |
★ 東京湾観音(千葉県富津市) | 56m | 1964 |
小豆島大観音(香川県小豆島) | 68m | 1995 仏歯寺 (2003.3.24) |
うさみ大観音(静岡県伊東市) | (50m?) | うさみ観音寺 |
釜石大観音(岩手県釜石市) | 48m | 1970 |
★ 白衣観音(群馬県高崎市) | 42m | 1936 |
西海楽園大観音(長崎県西海町) | 40m | 黄金色の聖観音 |
田沢湖金色大観音(秋田県田沢湖畔) | 35m | 鋳造。経営は某ホテルグループ |
鳥居観音(埼玉県名栗村) | 33m | |
純金開運寶珠大観音(三重県白山町) | 33m | 大観音寺 |
大谷平和観音(栃木県宇都宮市) | 27m | 1956 磨崖仏 手掘り |
百尺観音(福島県相馬市) | (27m) | 磨崖仏。座像。現在建設途上 |
★ 大船観音(神奈川県鎌倉市) | 25m | 1960 胸像 |
世界平和観音(長野県山ノ内村) | 25m | ブロンズ像 |
船岡大観音(宮城県柴田町) | 24m | |
霊山観音(京都市) | 24m | 1955 |
壷阪寺大観音(奈良県高取町) | 20m | 南法華寺。インドで製作 |
百尺観音(千葉県鋸山) | (約20m?) | 日本寺。磨崖佛。百尺(33m)はない |
(参考) | ||
鎌倉の大仏 | 13m | |
奈良の大仏 | 16m | |
リオ・デ・ジャネイロのキリスト像 | 30m | |
ニューヨーク・自由の女神 | 41m |