十日戎
[98-03-05]
再び 時期外れの話題。
新年早々 Tさんから「えべっさんに行ったことがあるか」と聞かれた。
えべっさん といえば「商売ハンジョで笹もってこい」という はやしことばが印象に残っているが, これはTV文化のおかげで, 関西に住んでいるくせに 実態はほとんど知らなかった。だいたい私は 人ごみに出るのが嫌いで, お祭りというのが あまり好きでない。
関西はお祭りが盛んで 秋祭りのシーズンになると, 毎日のようにあちこちで盛大なお祭りが行われる。 いろんな人から 「〇〇のお祭りは是非一度は行ってみるべきだ」, という話を聞かされるのだが, 今までほとんど行ったことがない。「えべっさん」というのは 本当は“えびす神社”の愛称なのだろうが, 毎年1月に行われる「十日戎」のことも指すらしい。
どうして 10日なのかわからないが, 奈良の人に聞いたところでは 「えべっさんといえば 奈良では‘5日えびす’」とのことで, やはり地域によって 少しずつ習慣が違うようだ。そう言えば, 関西に来るまで えびす神社というのにお目にかかった 記憶がない。これも関西中心の文化なのだろうか。
調べてみると 全国に えびす神社 と称するところ あるいは エビスさんを祀っているところは (神社の中に‘同居’している「境内社」を含めて) 5000 もあるのだそうで, 関東では
東京都 28
神奈川県 22
と少ないのに対して, 関西は
兵庫県 243
京都府 221
と 一桁多くなっている。ちなみに 県別で最も多いのは 広島県の 428で, 逆に 沖縄県には 一つもないそうだ。 (詳しくは こちら を参照)
明石市内にも 〔稲爪神社〕〔岩屋神社〕など えべっさん を祀った神社がいくつかあるようだ。とにかく 百聞は一見にしかず というわけで, たまたま 1月10日が土曜日だったので 出掛けてみることにした。
さて どこのえびす神社に行こうか。手元に参考になる資料がないので, とりあえず 広辞苑を引いてみたら, こう書いてあった。
とおか‐えびす【十日戎・十日恵比須】「兵庫県西宮の蛭子神社」は西宮神社だからわかる。 「大阪今宮神社」も 派手なことで有名らしい。 「京都の建仁寺」? どうして えびす神社の話に寺の名前が出てくるのだろうか。 大変興味深い。
正月10日に行われる初恵比須。兵庫県西宮の蛭子(エビス)神社のほか 京都建仁寺・大阪今宮の祭が名高い。
宝をかたどった縁起物を笹の枝先に付けて売る。 (広辞苑)
西宮神社は えびす神社の総本社だそうだから ここを欠かすわけにはいかない。
1日に 3ヶ所をまわることは 不可能ではなさそうだが, とりあえず順番としては 西宮→京都→大阪 ということにして, 大阪は時間次第 ということに決めた。【西宮神社】
阪神電鉄の西宮駅で降りる。狭い駅前は えべっさんにお参りする人で ゴッタ返している。駅舎までが派手に飾りつけをしている。
地図は持っていないが みんながゾロゾロ歩く方向についていく。はて? 神社に向かう人が 既に飾りをつけた笹を持っているのは どうしてだろう? ・・・ という疑問は 神社に行ってみて納得した。
毎年 商売繁盛を願ってお参りをする時にもらった(高い金を出して買った)笹は, 家(店)の中に一年間飾っておいて, 翌年の十日戎の日に もらった神社に納め, あらためて新しい笹をもらう ものらしい。面白いのは この笹が プラスチック製なのである。 プラスチックの枝に プラスチックの笹の葉がついている。 “ほか弁”に入っている あの緑色のビニールの葉っぱを 連想してもらえばいい。これなら一年中緑で枯れることがないから 合理的なのだろうか。
神社に入ると 押し合いへしあいの混雑ぶり。
本殿の前に 2人の神主さんが台の上に座って, 入ってくる参詣客の お祓いをしている。何か“自動お祓い機”をくぐり抜けている感じがあり 愉快で, 思わず笑ってしまう。賽銭箱の前に立って風呂敷でも広げていれば 1万円札が飛び込んでくるかもしれない
などと不敬なことを考える。
反対側を見ると, 大きなマグロが (もちろん生のマグロが一匹丸のまま) 置いてあって みんながこのマグロの表面に 5円とか10円とかの硬貨を張りつけていく。 一体これはどういう意味があるのだろうか。あとで読んだ説明には こう書いてあった。
『大マグロは 神戸市東部中央市場から奉納され, 十日えびすの期間中「招福マグロ」として拝殿に飾られる。 最近はこのマグロの頭や背中などに硬貨を張り付け 商売繁盛や豊漁などの願いを掛けることがブームとなり, 招福マグロは硬貨の「うろこ」でびっしりと覆われる。』
境内や周辺の路上には 名物の 熊手や ダルマ・招き猫などの 縁起物を売る店が 数百軒? 並んでいる。
予想外に面白くて もう少し詳しく見ていたい感じではあったが, 後の予定もあるので 京都へ向かう。【京都・建仁寺・恵美須神社】
下調べが不十分で, 建仁寺という寺はどの辺りにあるのか ボンヤリ分かっているだけで, どうやって行けばいいのかも不明。 仕方なくタクシーに乗る。
運転手が「今日は 十日戎だから 建仁寺の周辺は大変混んでいる」 と話してくれたので, ついでに 建仁寺という寺が 十日戎とどういう関係があるのか 聞いてみたら, 「別に 建仁寺が十日戎やってるわけではない。 建仁寺の隣に 恵比須神社というのがあって, そこのお祭りだ」 ということだった。な〜んだ そうか。
要するに 昔 建仁寺の中で 鎮守神として祀られていた恵比須社が, 明治の神仏分離の際に分かれて 独立の神社となったものらしい。 そういう経過から 今でも「建仁寺の えべっさん」と呼ばれているらしい。意外と小さな神社で, それ程多くはない参詣者でも身動きできない混雑。
おや? と思ったのは, ここでもやはり 去年の笹を手にして集まってきているが, その 笹の色が 西宮の場合と違うのである。西宮は ビニール製だから 1年経過した笹も 色変わりせず 青々と(日本語はおかしなところがある。 本当は“緑々”というべきだろう)しているが, 京都の笹は みんな枯れて 葉っぱは茶色になっている。 そうか こちらの神社では本物の笹をつかっているのだ!笹につける飾り物は 西宮神社より洗練されていて 美しい, と見たのは 私の偏見だろうか。
本殿の脇のところで「えべっさ〜ん。お参りさしてもらいましたで〜」 (と言っていたかどうか覚えていない(^^;) こんな京都弁はない と怒られそうだ。 まあ だいたいそんな意味のことを言っていたような気がする) と叫んで 壁をドンドンとたたく人がいる。せっかく来たのだから 神さんにしっかり覚えておいてもらわなければ... ということなのだろう。
関西人は 大事なところは しっかりと押さえている。
町の中に貼ってあったポスターで見たところでは この日 「ほえかご(宝恵駕)」が出ることになっていたらしいが, 残念ながら時間が合わなくて 見ることができなかった。
宝恵駕 というのは, “きれいどころ”や 最近では女優などが カゴに乗って参詣する行列らしい。
(右の写真は 今宮えびすで 福娘が乗った宝恵駕。 私が撮ったものではなく, 知り合いから借りてきた。)
こんなことをして遊んでいたら もう夕方。 大阪に行く時間はなくなってしまった。 機会があったら また来年の楽しみ, ということで 今年はおしまい。
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