練供養
[98-06-01]
当麻寺本堂
【当麻寺】
(奈良県北葛城郡当麻町)大阪府と奈良県の境, 二上山の東側に当麻寺(たいまでら)という真言宗の寺がある。 非常に古い寺で, 聖徳太子の時代に創建された。
ここの本堂の奥に「当麻寺奥院(おくのいん)」という寺がある。 ここは 「当麻寺」という冠ががついているが 当麻寺の塔頭ではなく, 実はその昔 京都・智恩院の奥の院として建立されたということで, 当麻寺とは由緒が違う。 またこちらは浄土宗で, 当麻寺とは宗派が異なっている。 長い歴史の中で 寺の宗派が変わることは珍しくないようだが, ここのように 共通の寺の名前を使いながら宗派が違うのは珍しいのではなかろうか。
この(これらの)寺が有名なのは, 毎年5月14日の夕方, ここで 「練供養 (ねりくよう)」という 非常にユニークな行事が行われていることによる。
真言宗である当麻寺の本堂から 浄土宗である奥院の娑婆堂までの 120メートルほどの間に 臨時に作られる「橋」の上を, 20数人の「菩薩」が行列するのだが, 装束と面をつけた姿は写真のように 大変ユニークである。
この行事は「練供養会式(ねりくようえしき)」とか「来迎会(らいごうえ)」とか 「迎講(むかえこう)」などの名前で呼ばれている。 親しみをこめて 単に「お練り」と呼ばれることもあるようだ。浄土信仰では, 人が死ぬときには 極楽浄土から大勢のほとけさまが迎えに現れる(来迎) という教えがあるそうで, これを劇的に表現するものとして 平安時代から今に伝わる行事なのだそうである。
写真では うす汚れたお面に見えるが, これは 表面に貼った金箔が長年の使用ではがれ落ちて黒ずんできたきたものようで, むしろ大変貴重な価値のある面らしい。 さすがに着ている装束の方は新調されていくのだろうが, これらのお面は江戸時代から (古いものは鎌倉時代から)使われているという。 その一つひとつは 美術品として展示会にも出品されるようなシロモノである。
宗教的な行事というものが嫌いな人間にも, この行事は大変珍しく面白い。 こんな面白い行事は ここだけのものかと思っていたが, 大阪の大念仏寺, 奈良の久米寺, 東京の九品仏浄真寺など, 全国十数ヶ所で 行われていることを知った。
【大念仏寺】
(大阪市平野区)大阪・平野区といえば, 例の「留置場で書類の決裁をした市長さん」で 全国的に有名になった東大阪市とも境を接する 大阪の下町である。
大念仏寺(だいねんぶつじ)は 鎌倉時代末期にできた寺で, 町の中にある寺としては まあまあ大きい方だろう。当麻寺の練供養が 1日だけに限って行われるのにたいして, 大念仏寺の方は 5月1日から7日まで 1週間ぶっ続けで行われるので, こちらの方が参拝者(観光客)が分散されて 比較的すいているようだ。 5月の連休の暑い一日を出かけてみた。
寺の説明によると, ここの練供養は もともと当麻寺で大当たりしているのをまねて やり始めたものらしいが, 本家とは多少様子が違っている。
「橋」は 本堂の裏手から側面を通って本堂正面まで 50〜60メートルもあるだろうか。 赤い手すりがついていて 写真を撮るのに邪魔になって イライラする。
現代風の音楽に乗って, まず稚児行列や茶道の講の女性たち などの行列が延々と続き, 飽きてきたころに ようやく菩薩さんたちの登場となる。
当麻寺の菩薩たちが 連なって歩き 中の何人かは踊るような身振りがあったのに対して, ここの菩薩は 行列の間隔が広くて, 前の菩薩の姿が見えなくなってから次が登場するというタイミングで, しかもあまり動きがなく 一定の姿勢のまま橋上を歩く。 ああやって歩くのも疲れるだろうな と思いつつ, 撮影ポイントを探しながら 混雑の中を徐々に本堂正面の方に回る。25人の菩薩の行列が終わると 最後に白い石膏のような面をつけた ほとけ様が現れる。 この行列が本堂に入ってしまうと 前半は終わりで, 見物人たちの多くは帰ってしまうが, 信仰を持っている人は本堂で行われる次の行事に参加する。
若干の図々しい観光客も「どうぞ入ってもいいですよ」 という声に誘われて一緒に本堂に入り込む。フラッシュをたいて写真を撮っても一切オトガメなし。
若い信者たちは 畳敷きの本堂内に行儀悪く座ったり おしゃべりしたりしている。 稚児行列に参加した子供たちが 取っ組み合いをしたり 両親にアメをもらって なめたりしている。
こういう自由な雰囲気は 部外者にとっても 気楽で大変好感が持てる。
本来 宗教というのはこういう雰囲気だったのだろうか などと ヒマにまかせて 勝手なことを考えたりする。長い読経が済むと, また同じ橋を渡って 先程と同じ順番で 帰りの行列が行われる。
行列が始まってから 帰りの行列のほとけさんの姿が消えるまで およそ4時間。 見物しているだけでも 相当の疲労感がある。
これを 7日間にわたって行うのだから, みんな大変な重労働だろう。 お疲れさま。
コメント或いはご意見がありましたら, 《こちら》へ