モノレール

[98-10-05]


新幹線で姫路の駅を岡山に向かって出発するとすぐに, 一本足の構造物が連なって 新幹線とクロスしているのが見える。 在来線(山陽本線)でも 同じように見えるが, 新幹線からだと (一瞬の間だが)上から見下ろす形になるため よく見える。

これを見つけてから ずっと, 一体何だろうと思っていた。 近くに工場らしきものがあるので, 何かを運搬するための設備かとも思ったが ちょっと違う。
その後 姫路から出ている 山陽電鉄の駅からだと もっと間近に見えることもわかった。 ちょうど山陽電鉄の線路をまたいでいる部分だけ途切れているのも 不思議である。それに 姫路にモノレールなんてないはずなのに・・・

姫路地図 そういう些細なことが気になり始めると 夜も眠れなくなるタチなので(^^;) いろんな資料を調べてみた。その結果, これは「姫路モノレール」の廃線跡 であることがわかった。

今から30年以上も前の話になる。
昭和41年に 姫路城の復元工事の完成を期に 「姫路博覧会」というのが開催された。 そこで 姫路駅と会場の一つである手柄山公園を結ぶ交通機関として モノレールを作る, という計画が持ち上がった。
姫路市営で, 工費 11億円。
ところが 開業してみたら 乗客はまばらで, 乗客数 126万人のもくろみに対して 初年度は40万人, 翌年からは更に乗客が減少してしまい, 到底採算がとれないことが わかり, 結局 開業からわずか7年で廃止が決まった。
累積赤字は 11.5億円。なんのことはない, 工事費を償却する以前に 運行費用の段階で 毎年1000万円近い赤字をくり返していたことになる。

この赤字には 姫路市も驚いたようで, 開業の翌年には 既に 「姫路市モノレール対策審議会」というものを開催して, 廃止すべきかどうか という議論がなされていたようだ。
昭和47年に書かれた 最終の審議会の答申書を読むと, そのあたりの事情がかなり読み取れる。

  1. そもそも, 推進派の人たちの心づもりとしては「博覧会のための交通機関」 は表面的な理由で, 本当は 姫路駅を中心として 南の海岸工業地帯と 北の新興住宅地域を結ぶ新しい交通網を作ることにあったらしい。 ところが それを表面に出すと 採算性や他の交通機関との競合が問題にされるため, とりあえず 手っとり早く「観光施設」と位置づけてしまった。
    しかし 手柄山公園そのものは 観光地としての魅力がなく、 今後よほどの開発をしない限り発展は望まれず, 従って乗客の増は期待できない。
  2. 運賃を改定しようにも, 同じ区間を バスなら 40円, モノレール100円という状況では, これ以上値上げすることもできない。
  3. 公共交通機関としては 安全を抜きにすることもできず, これ以上の合理化は困難。
  4. モノレール路線は 必要以上に急勾配・急カーブをつけているため, 車輌・レール等の損傷が著しく, 老朽化による維持費が今後ますます増大する。
  5. この時期までに 日本に作られたモノレールは, 東京にただ一つあるだけだった。 「世界で始めて」という試作品に近い車両のため, 部品の補充が容易でない。 おまけに 製造した会社は既に解散してしまい, それぞれの部品メーカーに特別仕様品として発注するため, コストが高く 納期も極めて長い。
    この機種が今後製造 ・改良される可能性は全くなく, 維持費だけでも莫大な赤字が生まれる。
ということで, 「従って、この際思い切ってこの事業を“休止”することが望ましい。」 ということになり, 直ちに運休となった。 更に その5年後には 廃止が決定された。

廃止すること自体にはそれほど反対もなかったようだが, やっかいなのは頑丈な高架のレールが置きみやげとして残されたこと。 解体費用は 10億円, 路線の下のテナントや 住人の移転費用がその 2倍近く必要だということで, 「これ以上赤字を増やすことは できない」という理由で, 抜本的な処理は先送りされたままになっている。
今までに ビルや道路の建設に邪魔になる場所が 部分的に撤去されたまま, いまだに 1kmをこえる線路が風雨にさらされたままになっている。

end of rail

姫路駅に一番近い部分。ここからレールが始まっている。 ・・・というより ここでレールが終わっている。
モノレールの姫路駅は もっと姫路寄りにあったと思われるが 現在はもう跡形もなく, この手前については どこに何があったかを知ることはできない。

山電と交差

山陽電鉄との交差部分。

道路上を立体交差する山陽電鉄の軌道上を モノレールが越えていたが, 安全上の理由なのか 架線の鉄塔の邪魔になったせいか, ここの部分ではレールがはずされている。

高架下

山陽電鉄との交差点が遠くに見える。

高さ6mぐらいのレールは やはり約6mごとに 一本の柱で支えられ, その下は 2階建ての商店が 長屋状態で並んでいる。
レールのこちら側は狭い道路になっていて, 場末の古い路地 といった感じ。

ビルに入り込む

しばらく進むと, レールは いきなり 10階建てぐらいの 大きなビルのドテッ腹に入り込む。
非常に不思議な構造で, どうしてこんな作り方をしたのか 理解に苦しむ。
この建物はアパートのようで, 右下に出っ張った部分はホテルに なっている。
ビルから出てくる

そのビルを出たところ。
ここは『大将軍』という変わった名前の駅 (このモノレールにとって唯一の途中駅) だったそうだ。 よくよく見ると, ビルの内部にプラットホームらしきものが見える。

この手前は 道路になっていて, ここでもレールが途切れている。
道路が JR山陽本線と立体交差の工事をするのに邪魔になったため 取り外したのではないかと思われる。

南へ方向転換

道路を横切ると, レールはここから 南へ方向を変えて進む。

この辺りが 全路線の中間地点になる。

新幹線と交差

そのまま進むと, 新幹線の下をくぐり抜ける。
手前の真下を JR在来線が通っている。

在来線とクロス

上の写真のすぐ先。

山陽本線(オレンジ色の列車)
姫新線(赤い色の列車)
新幹線(上方に見える防音壁)
  などと連続して交差している。

レールは全てコンクリート製だが, この在来線を越える部分だけが鉄橋となっている。 手入れがなされていないようで, 真っ赤にさびている。

手柄山へ

JRとの立体交差をすぎると, あとは一気に終点の手柄山公園に向かう。
ゆるく左右に曲がりくねりながら, 左側遠くに 茶色っぽく見える 手柄山の駅に到着する。




[98.10.9 追加]

『モノレール』にいただいたコメントの一部をご紹介。

【Tさんから】

  モノレールといえば、マレーシアのクアラルンプール市内で見たのを思い出す。
以前出張した時に目撃したものである。

  話によるとこのモノレールは、ホテル所有の観光用とか。宿泊した立派なホテル
(見かけは立派だが、スコールが来たらロビーホールの天井から雨漏りがした)
の前からグルッと数キロに渡って線路が空中に張ってあった。2両連結の車両は
ホテルの前の、駅でもない中途半端な場所で動かないまま吊り下がっている。
べつにそれ自体はいいのだが、線路の土台を見るとこれがまー何と。セメントで
固められた部分から直径1センチ程度のチャチなボルトが4本、数センチ出ていて、
それを厚さ1センチ程のナット4ケで申し訳程度に「止めてあり」、モノレールを
支える鉄骨を固定(ナットがしっかり止めてなくて揺するとグラグラきそうで、
フレキシブルな暫定的処置というのが当たっている)がしてあった。こんなんで
よく人を乗せるつもりだなーと呆れてしまった。
 実際に人を乗せたかどうかは聞き漏らした。マレーシアも案外表面は格好いいが、
よく吟味しないといけないナーと感じた次第。

 今回紹介の姫路のモノレールも観光用とのことだが、ちゃんと稼動させたのは、
「さすが日本人(?)」と評価できるが、いい加減さでは目糞鼻糞を笑うの類か?


面白い話をどうも。これは なかなか凄いですね。
このマレーシアのモノレールは 今は使われていないんでしょうか?

外国に行くと 日本人の安全感覚では 信じられないことがあるようですね。
以前韓国で「橋の倒壊」とか「デパート崩壊」なんてのがありましたが, この世の出来事とは思えないです。

「いい加減さ」と言っても, 経済的無責任さと 安全上の無責任さとでは だいぶ違うんでしょう。どちらが いい/悪い という話ではないですが...

【Uさんから】

のどかというか,11億円もの金を採算のとれるあてもなく,よく使ったものですね.
貨幣価値は当時と比べて6倍以上でしょうから70億もの金です.

モノレールと言えば,北九州市にはちゃんとしたモノレールがあり,今年から小倉
駅に乗り入れをしました.
地下鉄とモノレールの比較をして,工事費の安いモノレールにしたとのことです.

開業当初は,地元商店街の反対で,駅とは直結していませんでしたが,今回の直結
と同時に小倉駅が立派になり,博多からも駅ビルに遊びにくる人がいるとか.
何となく,博多に対してコンプレックスのあった北九州市ですが,駅ビルの立派さ
では勝っているようです.
九州に旅行されるときは是非小倉駅とモノレールをご覧ください.
という私はまだモノレールに乗ったことはありません.
【Tさんから】

30年前だからできたような話ですね。
ほったらかしになったままの線路は老朽化してあぶなくないのでしょうかねぇ?
でも, 撤去するにも膨大なお金かかりそうだから, どこかでドカッって
線路が折れたりしない限り, そのままほったらかしなんでしょうね。

モノレールと言ったら,浜松町〜羽田のモノレールが第一に思い浮かべます。
でも子供の頃に羽田になんて行く機会ないから,憧れの乗りのもでした。
【Iさんから】

写真(4)のドテッ腹にレールを貫通させたビルにはびっくりしました。
ビルが建っている土地とレールが建っている土地の所有者が違うのかしら?
もしそうなら、レールの土地の所有者の権利はどうなるのだろう・・・
このビルはモノレールと同じ時期に建設され、アパート?と駅が合体した
当時の最先端の建物だった・・・
等々、いろんな疑問や憶測が出てきます。

それにしても、お役所のやる事業というのはやはりいい加減なものですね。
さっと廃止したところは英断でしょうが、最初からそれ位の事業計画の予測が
できなかったものでしょうか。

川崎市にも、向ヶ丘遊園と小田急線との間にモノレールのレールがあり
たぶん使われていない(間違ったらごめんなさい)らしく赤さびだらけのレール
だけが寂しげに建っていますが、姫路のモノレール程、刺激的な風景は
ありません。
【Yさんから】

  今回,紹介いただいた「モノレール」の写真を見,廃線までの経緯を読んで
すぐに思い出したのは大船から横浜ドリームランドまでの「モノレール」です。
  大船駅には残骸がホームや電車の窓から見えるようですし,横浜ドリーム
ランドまでの道路上には 未だ,姫路と同じようにレールが残っているようです。
  何年か前には モノレールが復活するなんて新聞に載ったようにも記憶して
いますが どうなったものか???

  同じく大船駅から出ているのですが 江ノ島までの懸垂式の「湘南モノレール」
は バスと競合しないのでしょうか,長く続いていますね。
  M社に行くときなど利用したことがあります。町中を道路に
沿って走っているときなんか なかなか普通では味わえない風景を見ることが
できます。
【Fさんから】

姫路は大久保から30分。
でも姫路に出かけることなんて年に数回です。
同じ時間をかけるなら・・神戸に出かけますよね。
今度姫路に行くことがあればモノレール跡を見つけたいと思います。
(一番近いのは写真1番でしょうか?)

モノレールといえば江ノ島の辺りにもありましたっけ?
あれは採算がとれているんでしょうか??


お役所のやることは無駄のかたまり, と言ったら怒られるかもしれませんが, 最近の 第三セクターの破綻だとか 金を使うことだけが目的の土木工事だとか の話を聞くにつけ, よくまぁ これだけ無責任になれるもんだな〜 と ため息が出ます。一般の企業では フィージビリティスタディの段階で ストップがかかるような話が多すぎます。

各地のモノレールの話が出てきましたが, 調べてみたら 日本のモノレールの一覧表が見つかりました。
(ちなみに ★印は, 私が乗ったことのあるモノレールです ・・・ どうでもいいことですが)

  • 1951年 東京・豊島園 懸垂型 188m  遊園地用
  • 1957年 東京・上野動物園 懸垂型 330m  現在も営業
  • 1961年 奈良ドリームランド 跨座型 840m  現在も営業
  • 1962年 愛知県・犬山市 跨座型 1.2km  現在も営業
  • 1963年 川崎市・読売ランド 跨座型 3.1km 1977年廃止 ★
  • 1964年 名古屋市・東山動物園 懸垂型 470m 1974年廃止
  •   東京モノレール 跨座型 16.9km 浜松町〜羽田空港 営業中 ★
  • 1966年 向ヶ丘遊園 跨座型 1.1km 現在も営業
  •   兵庫県・姫路市 跨座型 1.6km 1974年営業休止
  •   横浜ドリームランド 跨座型 5.2km 同年9月営業休止
  • 1970年 大阪万国博覧会 跨座型 4.3km 万博後廃止・撤去
  • 1971年 湘南モノレール 懸垂型 6.6km 大船〜湘南江ノ島 営業中 ★
  • 1985年 小倉モノレール 跨座型 8.8km 企救丘〜小倉〜JR小倉
  • 1988年 千葉モノレール 懸垂型 13.3km 千葉台〜スポーツセンター
  • 1990年 大阪モノレール 跨座型 21.2km 大阪空港〜千里中央〜門真市 ★
  • 建設中 多摩モノレール 跨座型 16.0km 1998年一部開業予定
  • 建設中 那覇モノレール 跨座型 12.9km 2003年開業予定
結構たくさんありますね。
この資料の信憑性がどれだけあるのか不明ですが, 正しいとすると 『姫路のモノレールは 東京に次いで2番目』というのは かなり違っていました。

懸垂型モノレール
(湘南モノレール)
跨座型モノレール
(大阪モノレール)
新交通システム
(横浜・金沢シーサイドライン)

モノレールに似た交通機関として, 新交通システムというのがあります。
モノレールより若干幅広のコンクリート軌道の上を, ゴムタイヤで走るものですが,

  • 道路脇に柱を立てて線路を走らせること,
  • 建設費が安く工期も短くてすむこと,
  • 輸送量は比較的小さい,
など あらゆる面でモノレールに対抗するものとして. 東京(ゆりかもめ)・神戸(六甲ライナー・ポートライナー)・横浜(金沢シーサイドライン)・ 大阪(ニュートラム)・広島(アストラムライン)・札幌(地下鉄)などなど, あちこちで実用化されています。
新交通システムは2本足であるため,, モノレールに較べて安定感があって好まれるせいか, 最近はこの方が建設実績が多いような気がします。

【Mさんから】

姫路のモノレール跡。私も「すごい中途半端な物体だなぁ」と思って
いたのですが、今回の明石たよりで、疑問解決です。とりわけ、
「大将軍」には驚きました。
あんな、中途半端のままに、使用しているなんて・・・。
あれでも平気なのか、本当にお金がないのか・・。

このさい、この中途半端ぶりを売りに、何かしてしまうというのは
どうでしょうね。

【Hさんから】

それにしても大変な遺留品? があるものなのですね。
新たな建造物をそれを囲むようにつくったのでしょうけど、その時
どんな議論がされたのでしょうか  興味があります。

動かなくてもよいから 往時を偲ばせるようなダミーを用意し 、
モノレールに乗っけてみたらどんなもんでしょう。


私は 取り壊すことばかり考えていましたが, 中途半端に残っているなら それを利用したらどうか...とは, お二人の発想は凄いですね。
現在も 手柄山公園の駅に, 2両の車両が残されているそうなので, これを線路の上に置いて展示することは, その気になれば簡単にできそうですね。 (案外マニアに受けるかもしれない。)
 




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