99.9.16 酒呑童子のコメントページを追加しました |
『大江山の酒呑童子 (しゅてんどうじ) 』 という
おとぎ話を聞いたことがあるだろうか。
何人かの人に質問してみたが, 「名前ぐらいは聞いたことがある」
という人が若干いた程度で, あとは 「何 それ?」だった。
昔 わが家には 分厚いおとぎ話の本があって, 幼いころ
親がその本を一つずつ読んでくれた。
今はもう その内容はほとんど覚えていないが,
かろうじて覚えている話の一つに「大江山の酒呑童子」がある。
父親が 「酒呑童子というのは 赤ら顔で 毛むくじゃらの
大きな鬼で, 実は日本に漂着したドイツ人だったに違いない。
本当の名前は 「シュタイン・ドッジ」 というのだろう」などと,
冗談とも本気ともつかない話をしてくれたために,
この話をよく覚えていたのかもしれない。
数年前, 会社の OB である Sさんと会食する機会があり,
もらった名刺に 「日本鬼学会 会員」とあった。
「鬼学会」なるものは 何を研究する所なのかと聞いたが,
理解できる説明をもらえず, ずっと疑問に思っていた。
最近になって, 大江山というのは 京都府に実在する土地であることを知った。
しかも この大江という町は, 酒呑童子にちなんだ「鬼の博物館」があるという。
これは行ってみないわけにはいかない。
というわけで 今年の5月, 大江町に行ってきた。
大江という町は, 京都の北西部。舞鶴市と福知山市にはさまれた 山の中にある。
JR福知山から 北近畿タンゴ鉄道という, 第3セクターの鉄道に乗って 6つ目の駅。
15分程で 大江駅に着く。
大江町の鬼瓦公園 | 公園の鬼瓦 |
目的地である「鬼の交流博物館」を探すと, 車で20-30分程かかるという。
へえ! そんなに遠いのか。それにしても 鬼の博物館は 大江の町にとって
一番大事な?観光資源のはずなのに, どうやって行くのか どこにも案内が
出ていないのは不親切。やむを得ず 近くの店で聞くと
タクシーの営業所が駅の向こう側にあるという。そこまでテクテク歩いて行くと
「タクシーは1台しかなくて 30分後の予約が入っているから, 今はお客さんを
乗せられないよ」と のたもうた。
「だけど 10分後に町営のバスが出るから それに乗ったらどうだ」とのこと。
バスがあるなら それを先に教えてくれよ... どうして店の人はそのことを
言ってくれなかったのだ...?
どうも「分かっていない人に説明をするすべ」というものを心得ていないらしい。
困ったものだ。
しかし 善意に解釈すれば, 観光地ずれしていない土地柄のせいかもしれない。
それはそれで 好ましいことか 。
街灯にも鬼の絵 | 鬼の像 | バスに描かれた鬼 |
鬼の交流博物館 | 高さ5メートルの大鬼瓦 |
最近は 花や野菜などの「名産品」, あるいは「祭」などをテーマにした
町づくりをするのがはやっているようだが, 『鬼』という どちらかというと
地味で暗いイメージのテーマにこだわって 町づくりを進めたのは 珍しい。
この博物館は, 今から6年前に 町おこし事業の 目玉として開館したのだそうで,
その中心人物である 村上さんという 元・高校の校長だった人の努力で
建てられたという。
その村上さんが 博物館の事務所にいて, 「館内で写真を撮ってもいいか」
と聞いたら「いいですよ。どうぞ どうぞ」とニコニコ返事してくれた。
このオジサンが 鬼の町づくりを進めてきたのか... と 思わず 尊敬のまなざしで
ジロジロと見てしまった。人は見かけによらないものだ。
博物館には 日本の鬼・世界の鬼・日本各地で実際に使われた鬼瓦, その他 鬼に 関するありとあらゆる資料が集められて 展示されている。 当然 大江山の酒呑童子など, 鬼伝説についての解説や資料などもそろっている。
“大江山の鬼” | “世界の鬼” |
博物館のある場所は 大江山の中腹で, 何年か前までは 鉱山跡地 (おそらく
精錬所の跡なのだろう) だったそうだ。今は 博物館のほかに
こぎれいな宿泊施設などがあって, 鉱山があったなどと思わせるものはない。
博物館としては かなり小規模なものだが, 文字通り
日本中の「鬼研究者」の交流のセンター的な場として,
その道の人たちには有名な存在らしい。
しかし, なにしろ不便なところにあるから 来館する人は,
平均して一日100人ぐらいだそうだ。
しかし 全国から 鬼に興味のある人が来てくれるのがうれしい という。
ところで, 酒呑童子の話は大変古いらしい。 平安時代から言い伝えられてきたものと言われ, それが 各地の伝承文学として伝えられ 御伽草紙などに取り込まれるうちに, 細部はどんどん変化し 枝葉がついて, 現在は 多くのバリエーションがあるようだ。
最もポピュラーな物語を 童話から抜粋すると 次のような内容になる。
また 現地の大江町に伝わる話, 広辞苑の説明は それぞれ内容が違っていて
面白い。特に 広辞苑が『鬼の姿をした盗賊』と言い切っているのは 興味深い。
【酒呑童子】 (現在の童話から)
やがて一行は 川で血の付いた布を洗う老婆に出会った。
老婆は 「ここは鬼の里です。見つかると大変ですから お逃げなさい」と言う。
しかし頼光は「自分たちは鬼を退治に来たのだ」と告げ,
老婆に どこから来たのか尋ねると 老婆は涙を流しながら身の上を語った。
『私は 元は公家の妻として都に住んでいましたが, 鬼たちにさらわれてきました。
でも痩せて おいしくなさそうだ ということで, 鬼に食べられることなく
こうして下働きをしています。』
そして老婆は 頼光たちに, 鬼の城への道筋や 鬼の城の中の様子などを教えた。
頼光たちは鬼の城に到着。道に迷ったので泊めて欲しい と頼むと,
鬼たちは承知して 一行を中に入れる。
頼光は 泊めてくれるお礼に と酒を差しだし,
鬼たちもそれを喜んで酒盛りが始まった。
鬼の大将は 酒呑童子。他に 星熊童子・虎熊童子・熊童子・かね童子・茨木童子
などがいた。
酒盛りが進むと 鬼たちは酔っぱらって寝込んでしまう。
頼光らは起きだして 鬼の寝床に向かい, 一気に首をはねた。
酒呑童子の首は はねられたまま頼光に飛びかかり,
その兜にかみつき, そのまま動かなくなった。
他の鬼たちも次々と倒し 全滅させた。